こんにちは。
メディセレスクール教務部長の川上絢美です。 先月(9月15日)、メディセレ東京校で 「次世代の薬剤師を創る会」 という薬剤師の勉強会を開催しました。 早いもので今回で11回目を迎えます。 さて、今回のテーマは、「OTCを知る」です。 OTC医薬品は、薬局薬剤師医にとっても、病院薬剤師にとっても、 そして私のような非臨床薬剤師にとっても、日常的に相談を受ける分野です。 しかし、そのわりに大学教育ではほとんど触れられませんし、 OTCについて体系立てて書かれた教科書もありません。 OTCは一番身近にある医薬品なのに、これらに詳しい薬剤師は少ないのが現状です。 私もその一人です。 そんな現状を鑑みて、メディセレではOTCのスペシャリストに 経験を交えながら講演いただくこととしました。 今回、講師としてお招きしたのは、OTCの鬼! 鶴見 健先生です。 鶴見先生のご経歴は少し異色です。 大学院の修士課程を修められた後、 どうしてもOTCをやりたい! ということで、恩師の反対を押し切って大手ドラッグストアに就職されました。 大半の薬学生が病院か調剤薬局、あるいは製薬企業に就職します。 そんな中で、薬学修士でOTCを希望する鶴見先生はまさに異端児! 他を圧倒するOTCへの情熱により、 現場では「鶴見先生からしか商品を買わない」という熱烈な支持をうける 地元のカリスマ的存在となりました。 販売実績1位にも何度か輝き、 表彰もされています。 まさにOTCの鬼!! 鬼の講演内容は、ケーススタディで、すべて実践的なものばかり。 ぜひ、自分がドラッグストアで、 お客様(患者さん)相談にのっていることをイメージしながら読んで下さい。 きっと皆さんの役立つと思います。 ※ OTC医薬品 英語の「Over The Counter:オーバー・ザ・カウンター」の略で、カウンター越しにお薬を販売するかたちに由来しています。薬局・ドラッグストアなどで販売されている医薬品で、医師の処方箋がなくても購入できます。法律的には「一般用医薬品」と表現されており、通称「大衆薬」あるいは「市販薬」と呼ばれてきましたが、2007年より「OTC医薬品」に呼称が変更・統一されました。 ケース1 「ルルA錠とパブロンS錠、どっちが効きますか?」 これは良くある質問です。 薬剤師であればおそらく、箱に書かれている「成分・分量」を確認するでしょう。 これが、ルルとパブロンの成分表です。 ……………ほとんど同じです。 ドラゴンボールに登場するスカウターで、両者の戦闘力を比較するときっとこんなでしょう。 ……………ほぼ互角! ここで正直な薬剤師であれば 「どちらも同じです。どちらでもいいです。」 などと答えてしまうかもしれません。 理論的には正しい答えですが、 鶴見先生は 「それではお客様(患者さん)の質問に答えたことにならない。」 と言います。 そうなのです。 お客様は 「どちらが効きますか?」=どちらを飲めばいいのか? と聞いています。 つまり、どちらかに決めて欲しいのです。 互角の戦闘力であればなおさらです。 ここでお客様のニーズに応えるとは、 このお客様が飲むべき風邪薬をどちらかに決めてあげることなのです。 さて、皆さんならばどちらをオススメするでしょうか。 実は成分的にはほぼ互角の両者ですが、メーカーは少し異なった販売戦略をとっています。 例えばルルの方ですが、CM(かなりレトロ)をご覧ください。 そこの流れる歌詞、「くしゃみ3回、ルル3錠」。 また、成分表を見るとクレマスチンが一番上に書かれています。 鶴見先生曰く、そのメーカーが自信を持っている成分、得意な成分が一番上に書かれているそうです。 なので、ルルはどちらかというと鼻の症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)にフォーカスした感冒薬といえます。 一方、パブロンはというと、これもCMを見てみましょう。 松嶋菜々子さんが喉を押さえて「んんんっ!」と言っています。 喉の症状を強調しています。成分表をみると アセトアミノフェン、ブロムヘキシン、ジヒドロコデインが上の方に記載されています。 これらのことからパブロンは喉の症状(喉の痛み、咳、痰)にフォーカスした感冒薬といえます。 そこで、お客様に一言聞いてみましょう。 「一番お困りの症状はなんですか?」と。 もし、鼻水が辛いとおっしゃれば、ルルを。 咳がひどいし喉が痛い、とおっしゃればパブロンをオススメします。 感冒薬だけでなく、胃腸薬、咳止め、鎮痛薬など、OTCでは「それほど差のない商品」が多いものです。 OTCの現場では、「ほとんど差のない商品」に差をつけることがしばしば求められます。 ケース2 60歳代の男性 「最近口の中が苦いことがあるんだけど、何でかな?」 唐突に質問をされる、これもOTCの現場ではよくあることです。 しかも、情報量が極端に少ないのもドラッグストアの特徴です。 こんな時、限られた情報から苦味の原因を考えていかなければなりません。 実は口の苦味の原因は、90%が口腔乾燥によるものです。 したがって、唾液分泌が低下する原因を考えます。 まず、口渇といえば、糖尿病です。 血糖値の異常を指摘されたことがないか、 多飲、多尿などの症状がないか聞いてみる必要がありますね。 そして、抗コリン作用をもつ薬物 も口渇を引き起こします。 意外と知られていませんが、アムロジピンも口渇を起こします。 それから利尿薬も体液量を減らしますので口渇を生じます。 現在服薬中の医薬品(OTCも含めて)聞いて見る必要がありそうです。 あとは体内水分量が減るということではアルコールです。 アルコールの代謝にはそのアルコールの1.8倍の水が必要だといわれており、 口渇の原因になります。 大酒を飲んだ翌朝に口の中がからからに乾いてることってありますよね。 口渇以外に考えられるのは、味覚障害です。 味覚障害は亜鉛の欠乏で起こります。 この方に、服用中のお薬がないかをきいてみたところ、 アムロジン(アムロジピン)を服用中とのことでした。 アムロジンによる口渇の可能性が高いと考えられます。 このようにOTCでは非常に患者情報が少ないため、 患者の主訴から可能性のある原因を列挙し、 効率良く質問することで、 その原因を絞っていくというスキルが必要です。 これはプライマリーケアの最前線に立つ薬局薬剤師や内科医に要求される重要なスキルです。 ケース3 クラリシッドDS(ドライシロップ)が処方された小児の保護者 「クラリシッドをゼリー状オブラート(服薬ゼリー)で飲ませたら苦くて嫌がるのですが…。 どうすればいいですか?」 ゼリー状オブラートは近年の発明品として、とても画期的で優れています。 個人的には、「のどぬ〜る ぬれマスク」に匹敵するほどだと思っています。 これさえあれば、薬が苦手な子供も簡単に服薬できますし、 嚥下力が低下した高齢者でも安全に服薬できます。 しかし、苦味を抑えるために使用するオブラートゼリーにより、 医薬品の苦味が増すとはどういうことでしょうか。 クラリシッド(クラリスロマイシン)は、非常に苦味が強いことで有名です。 なので、通常はフィルムコーティングをするなどして、 苦味を感じないように剤形が工夫されています。 しかし、 酸性条件下だとこのコーティングがはがれてしまい、 苦味を感じることがあります。 オブラートゼリーの中でも、フルーツ味(イチゴ、レモン、リンゴ味)のものは酸性を示します。 酸味がある方が唾液がよく出るので、 お薬がより飲み込みやすくなるからです。 しかし、クラリシッドのようなコーティング剤を酸性のオブラートゼリーと混ぜると、 コーティングがはがれてしまいクラリシッドが露出し、 逆に苦味を感じてしまいます。 このようなときには、 中性のオブラートゼリーをお勧めしましょう。 酸性でないもの、すなわち、フルーツ味でないものです。 龍角散オブラートゼリー「チョコレート味」 おさるのマークが目印。パッケージにも 「抗生物質など にがいお薬に」 と書かれています。 このようにあらゆる質問、不足の事態が起きるのがOTCの現場です。 つづきは次回。 太田胃散とコーラックについて勉強しましょう。
by Medisere
| 2013-10-04 14:01
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