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学会へ行こう! 4(簡易懸濁法)

こんにちは。
病態生理・薬物治療担当の川上(絢)です。
先週、10/24、25と長崎で開催された「第19回医療薬学会」へ行って参りました。
そう、初めての学会口頭発表を行うしゃっちょうと。
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初めての口頭発表にも関わらずいかがでしょう、この堂々とした
演者っぷりは…。
さすが、しゃっちょうです。
練習を一回もしてない人の様には見えません。
(しゃっちょうの学会発表詳細はこちら→しゃっちょうブログ


さて、今回は長崎 医療薬学会第2段です。
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シンポジウム
薬局・病院で今後必須になる患者中心の薬学的ケア
についてです。
病態生理・薬物治療担当講師の私にとって、このシンポジウムは必須でしょう。
このシンポジウムでは5名の著名な先生方がお話しをされました。
中でもすばらしかったのは、
患者中心の薬学的ケアを目指した職能拡大
倉田 なおみ先生
(昭和大学薬学部薬剤学教室)
です。
病院薬剤師を目指している、あるいは考えている方は、
倉田先生のお話を聞いてみると良いでしょう。
昭和大学の学生さんは幸せ者です。
身近にこんなスーパー先生がいらっしゃるのですから。
大変有名な先生ですが、お会いするととても気さくですてきな先生です。

何で有名なのかというと…今現場で盛んに行われている
倉田式簡易懸濁法
を考案なさった先生なのです。


倉田先生の講演はある医師と看護師とのやりとりから始まります。
それは経管栄養を受けている患者さんに関するものでした。
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そして一言問いかけられます。

「これは患者中心の医療でしょうか?」

ドキッとします。
確かに、チューブが詰まるというのは、患者さんにとって不利益です。
だからっといって太いチューブを入れたまま、というのは患者さんにはつらいものです。
異物感があり、痛く、苦しいものです。
細いチューブの方が快適なのは明らかです。

現在は、医師を頂点としたピラミッド型医療から、
患者中心のチーム医療に移行しています。
薬剤師国家試験でも「患者中心の医療」をテーマにした問題が出題されているくらいです。
倉田先生が感じてこられたのは
患者中心の医療と口では言いながら、実際には実践されてない現実がある
ことです。
また、それに対して
ならば薬剤師に何ができるか
ということも必死に考え続けてこられました。



そんな倉田先生の知恵が簡易懸濁法なのです。


経管栄養※を受けていらっしゃる患者さんに対して薬を投与する場合、
水に薬剤を溶かして(あるいは懸濁して)注入器(注射器のようなもの)で吸い取り、チューブを通して投与します。

ちなみに経管栄養とは…
飲み込む力がない、麻痺などの理由で経口摂取が不可能あるいは不十分な患者に対し、体外から消化管内に通したチューブを用いて流動食を投与する方法です。
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この時、ある問題が生じます。
注入器で吸い取るために、水に薬剤を溶かそうとするのですが、
疎水性の薬剤は水とうまく混ざりません。
また、錠剤ならば「粉砕」してから水に混ぜなければいけませんし、
カプセル剤は、カプセルを開けて中の薬剤を取り出して水と混ぜなければいけません。
時間と手間がかかりすぎます。
さらに、うまく懸濁できていない薬剤や顆粒剤は、注入器に吸い取れませんし、
最悪の場合チューブをつまらせてしまいます。



そこで、これらの問題を解決すべく、倉田先生が考案されたのが
簡易懸濁法
なのです。
簡易懸濁法は「粉砕」の処方であっても投与時に錠剤・カプセル剤をそのまま水に入れて崩壊・懸濁させる方法です。錠剤をつぶしたりカプセルを開封したりする必要がないのです。
カプセルを溶解させるために約55℃の温湯に入れて自然放冷します。
水に入れて崩壊しない錠剤の場合、コーティングを破壊して水に懸濁・崩壊しやすくします。
あとはかき混ぜると注入器で投与可能な懸濁液ができあがります。
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簡易懸濁法をもっと勉強したい方はこちら
   ↓
倉田なおみ監修 簡易懸濁法とは
倉田なおみ先生の簡易懸濁法

すっかり倉田先生のファンになった私は倉田先生のネット動画は全て拝見しました。
私はちょっとしたストーカーでしょう。



カプセル剤のカプセルはゼラチンです。
薬学生なら誰でも知っています。
ゼラチンは水には溶けにくいですが、お湯に入れるとふにゃふにゃになり簡単に懸濁できます。
これぞ、化学を学んだ薬剤師ならではの知恵です。
この簡易懸濁法のおかげで、チューブに薬剤が詰まることも少なくなりましたし、
粉砕する薬剤師の手間と時間の削減にもなりました。
空いた時間で他にも様々な業務をこなすことが可能になります。

こんなにすばらしい簡易懸濁法ですが、注意すべきことがいくつかあります。

1.本当に溶解・懸濁するか?

  (疎水性薬剤は投与時に水に混ざっていないことがある)
2.全量投薬できるか?
3.55℃のお湯の中で医薬品は安定か?
4.複数配合の場合に配合変化はないか?


これらをクリアするためには医薬品の
物性情報
が必要です。
残念ながらこれらの情報は製薬企業をはじめどこからも出されていません。

そこで、倉田先生はデータが無いことを嘆くのではなく、
自ら実験をし、さまざまな医薬品で簡易懸濁法が可能かどうかを検証されました。
その結果は一冊の本にまとめられています。
それがこちら…
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先生のその徹底ぶり、すごすぎです!


倉田先生のモットーは
薬局から薬を出してしまえば終わりではない。
患者さんの体に薬が正しく入るまで責任をもつ。

というもの。


臨床の現場にはこんなにすごすぎる薬剤師の先生方がいらっしゃいます。
やはり、私のつたない文章力ではとてもその講演のすばらしさを伝えることはできません。
このような先生方に会うために、

薬学生諸君、学会へ行こう!
by Medisere | 2009-11-18 15:58


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