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学会へ行こう! 3(PK-PD理論)

こんにちは。
病態生理・薬物治療担当の川上(絢)です。
今回の「学会へ行こう!」は学会のすばらしさを伝えたいという私の気持ちがあまりに大きく、
超大作のブログとなってしまいました。
とにかく長いので心してお読み下さい。
(苦情は受け付けいたしかねます。ご了承下さい。)

先日(10/24、25)、長崎で行われた医療薬学会へ行って参りました。
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そう、初めての学会口頭発表を行うしゃっちょうと。
(しゃっちょうの学会発表はこちら→しゃっちょうブログ
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この写真のお隣にいらっしゃるのは、
International Pharmaceutical Federation (FIP)国際薬学連合の会長さんです。
FIPは、ものすごく簡単にいうと世界規模の薬剤師会です。


さて、今回も新たな知識を習得すべく、学会に参加して参りました。
今回、医療薬学会で皆さんに紹介する講演は2つです。

1つ目は、ランチョンセミナー
PK-PDに基づく抗菌薬の適正使用
決してお弁当が目当てで参加したのではありません。
実は、セミナー直前に長崎に到着した私は、
ランチョンセミナーのチケットを持っていませんでした。
でもどうしてもこのPK-PD理論に基づいた抗菌薬(クラビット)の話を聞きたかったので、
お弁当を配布されている企業の方に、
「チケットがないので、お弁当は結構です。
ですが、どうしても講演を拝聴したいので、資料だけ下さい。」
と申し上げました。そうすると、
「いいですよ。お弁当もどうぞ。」
と講演資料とお弁当までGETできたのです。
何度も書きますが、決してお弁当が目当てではありません。
(もちろん、お弁当はおいしくいただきましたが…)

2つ目は、
シンポジウム
薬局・病院で今後必須になる患者中心の薬学的ケア
こちらは次回の「学会へ行こう!4」でご紹介します。


さて、抗菌薬の適正使用について書く前に、PK-PD理論って何でしょうか。
PKは、ファーマコキネティクスPharmacokineticsの略です。
薬物の用法・用量と血中濃度の関係を定量的に扱う学問、つまり薬物動態です。
PDはファーマコダイナミクスPharmacodynamicsの略です。
薬理作用を発現する時間的変化を研究する学問、つまり薬力学です。
この考えに基づき抗菌薬を使用することで、
よりよい抗菌作用を得ようというわけです。
臨床の現場では、この理論に基づいた処方が増えてきました。
薬剤学を勉強した薬学生や薬剤師にとって、
PK-PD理論は全く難しくはありません。
むしろ、とても理解しやすく納得のいく理論です。


今回は、レボフロキサシン(商品名:クラビット)について考えます。
レボフロキサシンは、代表的なニューキノロン系抗菌薬です。
抗菌薬には様々な種類のものがあり、
大きく時間依存性の薬剤と濃度依存性の薬剤に分けることができます。
時間依存性の薬剤は、細菌が抗菌薬と接触する時間が長ければ長いほど高い効果が得られる薬剤です。
つまり、時間依存性の薬剤では、
投与回数を増やして高い血中濃度を長期間維持することが重要なのです。
臨床で最もよく使用されるペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系などのβラクタム系抗菌薬が代表的です。


これに対して、濃度依存性の薬剤は、血中濃度が高いほどよりよい抗菌作用が得られます。
したがって、濃度依存性の薬剤は、
1回毎の投与時の最高血中濃度をできるだけ高くすることが重要です。
代表例は、アミノグリコシド系とキノロン系(レボフロキサシン)です。

最近、アルベカシン(アミノグリコシド系)とレボフロキサシン(ニューキノロン系)の
用法・用量が変更されました。
アルベカシンは、去年(2008年)「1日150〜200mg 分2」から
「1日150〜200mg 分1」へ変更となり、
投与回数を減らすことで1回投与量を増やし、
最高血中濃度をより高いレベルに引き上げることが可能となりました。

また、レボフロキサシンも今年(2009年)から500mg錠が発売されました。
以前は、「100〜200mg 分2〜3」でしたが、
今年から「1日500mg 分1」の投与が可能です。
では早速、レボフロキサシン「200mg 分2」の場合と
「500mg 分1」の場合を比較してみましょう。

・レボフロキサシン 200mg 分2の場合
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レボフロキサシン投与直後は、血中濃度(オレンジ)がMIC()を超えていますが、
それ以外ではほとんどMICすら超えていません。
あ、ちなみにMICとはMinimum Inhibitory Concentrationの略で、
最小発育阻止濃度といいます。
微生物の発育を阻止する抗菌薬の最小濃度のことです。
抗菌作用を得るためには、血中濃度がこのMICを超えている必要があります。
実際に肺炎球菌の数()を見てもわかるとおり、
投与直後は多少減っていますが、ほとんど変化はありません。
このことから、
レボフロキサシンは、200mg 分2では、
十分な抗菌効果は得られないということがいえます。


・レボフロキサシン 500mg 分1の場合
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投与直後から十分にMICを超えています。
また、キノロン系は濃度依存性抗菌薬ですから、
高い血中濃度に達することによって、より高い抗菌効果を発揮します。
実際に、肺炎球菌の数も大幅に減少しています。

以上から、抗菌効果は
200mg 分2 < 500mg 分1
500mg 分1の方が有効性が高いといえます。




しかし、
薬剤師たるもの、いくら「500mg 分1」の方が効果が高いとはいえ、
患者さんの安全が確保されていなければ「500mg 分1」を支持するわけにはいきません。



もちろん、承認がおりるくらいですから、ある程度の安全性は証明されています。
現時点では、「200mg 分2」も「500mg 分1」も副作用の発現頻度は同じくらいだと言われています。
副作用発現に優位差がないのであれば、
「500mg 分1」を選択する方が患者さんのメリットは大きいですね。



薬学生の皆さん
PK-PD理論をマスターし、
より良い化学療法を実践できる薬剤師になってください。





薬学生諸君、学会へ行こう!
by Medisere | 2009-10-27 20:34


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